旅に出るのです 春に はじめて

 4時起床、朝風呂のお湯を溜めている間に旅行準備(1泊なので殆ど必要ありません)。今回の目的地は佐世保、行き帰りは電車で2時間強です。
 車内では車窓を見ながらCDを聴くことにして、八代亜紀・チェリッシュのベスト盤を準備。私の中では5年おきくらいに「悦ちゃん」のブームがやって来るのですが、今が正にその最中で、ここ数日はYouTubeで「夢のおかず」を1日に2回以上聴いています。準備したベスト盤は中学校の時に買った物で、「なのにあなたは京都へ行くの」から「四季・奈津子」までの10年間のシングル曲のうち18曲が収録。今回のマイ・悦ちゃんブームで知ったんですが、「四季・奈津子」って(こちらも大好きな)岸田今日子との競作だったんですね。

 タクシーでJRのK駅へ。6時少し前に着いて、駅構内のコンビニATMでお金を下ろそうとしたら、6時オープンのファミマがまだ開いておらず、私、コンビニエンスストアがオープンする瞬間というのを初めて目にしました(ただ、留学生らしき店員さんが電気を灯すだけなんですけれども、何か良いところに立ち会った感覚が)。
 外は真っ暗で6時15分初の普通電車は乗客が疎ら。Kを出たら、鳥栖・佐賀・江北駅で3度の乗り換え、前述の通り乗り換え含めて佐世保まで2時間強です。江北からの電車は中学生・高校生でいっぱい。平日年休でお気楽旅行という肩身ですので座るのは我慢、車両の端っこでバッグを抱きしめながら悦ちゃんを聴いていましたが、武雄温泉駅で殆どの乗客が降りてしまったので、最後50分くらいはシートに座って車窓を眺めることができました。

 佐世保には8時35分に到着。駅そばのホテルに荷物を預けて、駅前のタクシー乗り場から九十九島エリアに向かいました(途中、教務部長地理先生に教えて頂いた世界遺産のクレーンが見えました)、今回の旅行に関しては夜・昼の会食(68回生Fくんと)以外は全くの無計画なのですが、水族館があると聞けば訪問しない手はありません。
 「九十九島パールシーリゾート」と呼ばれるエリアに到着。先ずは九十九島遊覧船の乗り場に行き、クルーズのチケットを購入します。子沢山の地理先生からは「あれは楽しいよ……独りでだと分かんないけど」との言を頂戴致しましたが、こちとら独りのでぇベテランです。クルーズ船は、海賊船みたいな大型(パールクィーン)と、10人の利程度の吹きさらし小型(リラクルーズ)と、2通りのサイズがあり、受付の方は今日のような風の強い日は暖房付きの大型を是非と勧めて下さったのですが、天邪……もとい舌切り雀で小型を選択しました。

 9時開館直後の水族館「海きらら」へ。平日の朝なんて誰も来ていないだろうという(失礼な)予想は覆され、外国人観光客、幼児連れ家族、人生ベテランのご夫婦(これがかなり多い)、そして幼稚園の社会見学となかなかに盛況です。
 先ずは、アコヤ貝(実物を見るのは初めて)の真珠取りだし体験というのを、1000円払ってやってみました。ナイフで2枚貝をパカリと開き、ピンセットで真珠1粒を取り出す。私が選んだのは「ゴールド」色の「ドロップ」型なのだそう(クイズ研究会顧問としては、クイズベタの「バロック」型の方が良かったのかしら)。真珠は持ち帰りで、追加1000円を払ってイニシャル付きのストラップに加工してもらいました。自分用のお土産はこれで充分かな。
 「海きらら」は九十九島の海洋生態(アコヤ貝もその一つ)に的を絞った水族館で、残念ながらペンギンはいなかったのですが、カブトガニは成体だけでなく卵まで展示されていましたし、全国でもここのイルカショーだけでしか観られないというジャンピングキャッチボールには東西老若男女が満座喝采でしたし、アコヤ貝体験もできましたし、生まれたばかりのエイの赤ちゃんも可愛かったですし、150分があっという間の魅力的な空間でした。

 「海きらら」の隣にあった中華食堂で人生初の「刀削麺」を食べたらこれが全然美味しくなかったのだけは悔しい(反面、夜の寿司が俄然楽しみになったという利点もありました)。

 暖房付きの大型ではなく吹きさらしの小型を選んだ九十九島クルーズ、平日朝の舌切り雀は私だけだったようで、運転手兼ガイド氏を私が独占という環境で50分を満喫(海風は大変強かったので、「海きらら」でグッズのシャツを購入して重ね着したのは正解でした)。
 小型船、砂岩侵食の様子や島々の名前の由来などの『ブラタモリ』的なガイドは大型船と同じなのでしょうが、砂浜に乗り上げんばかりのギリギリまで島に近づける小回りだったり、真珠体験の話をしたら養殖場の「田崎真珠」の看板前でストップしてもらえる融通だったり、岩上の巣から準絶滅危惧種のミサゴの鳴き声が聞けたり、とサービスが増し増しでした。腰掛け1枚で北風に耐えた甲斐は充分以上にあったと思います(というか、小型の方が大型より3割増しで値段が高かったんです。そりゃそうでしょうねぇ)。

 ちょうど良い時間に駅に戻るバスがあったのでそれに乗ったら、駅に到着する前に、先のクルーズの船頭さんがお勧めして下さった観光スポットである「セイルタワー」があったので咄嗟に下車。
 正式名称「海上自衛隊佐世保資料館」は、日本海軍・海上自衛隊の遺産・史料・資料を継承展示する施設。軍にも自衛隊にもそこほど深い興味があるわけではありませんが、K市から来ておいて海上自衛隊に仁義を切らないというのもあれですし……というか、7階建てタワー(最初に7階までエレベーターで上り、1階ずつ下りながら観ていく順路)からの街並み遠景を味わいながらの近代史概観、普通に面白かったです。無料。

 駅まで歩く途中の繁華街(夜の寿司屋はここにあります)のカフェでコーヒーブレイク(スマホ充電)。ホテルに戻ったのはチェックイン15時をちょっと過ぎた時刻で、取りあえず部屋風呂にお湯を溜めて本日2度目の入浴。

 その後、夜の約束まで半端に余った時間を、松浦鉄道乗車体験に充てました。JR佐世保駅ICカードが使えませんが、松浦鉄道はOKだったことは先に書いておきます。
 佐世保から、2両編成の電車にのんびりと揺られること15分。ビル住宅の隙間を縫って目指したのは泉福寺駅、退勤・下校のジモティーに紛れたローカル線体験は短い時間でしたがなかなか楽しい。下車した泉福寺駅は安定の無人、どころか駅舎も屋根すらも無い雨晒し(若干の雨模様なのでコンビニで傘を買いました)で、そこからトボトボ20分程歩いた山中に「眼鏡岩」はありました。灯ともし頃も過ぎた雨天故に写真に魅力は残せませんでしたが、実物はまさに奇岩の迫力、水木しげる翁の描く「大首」を思わせます。雨宿りの出来るベンチで初々しくしかし確実にイチャイチャしていた高校生男女は私が近づくとそそくさと退散、申し訳ないとは思いましたが日は確実に暮れていますので、子どもは帰って風呂に入って飯食って宿題やって、イチャイチャはLINEとかテレビ電話とかで(よく知らんけど)やって下さい。

 帰りは西肥バスで繁華街の松浦駅まで。19時に約束のFくんと、市内随一という鮨「重兵衛」カウンターに並びました。
 整形外科医として1年間だけ佐世保の大病院に勤務しているFくんからは、給与体系が良すぎて金銭感覚がバグるというその大病院での仕事ぶり、夜の(飲み方と金払いとの)激しさ、等々の話を伺いました。例えば、Fくんは客単価2万の「重兵衛」には2度目の訪問で、前回は賭け(ダイエット競争)で最下位だった後輩が参加者7人に全驕りしたということでした。後輩、30万円持ってきて一晩で全部使ったんですって。成程、バグってるわ(今回は割り勘です)。

 「重兵衛」はカウンター8席・テーブル1つ。勿論、予約満員。注文はコースのみ、ドリンクメニューはなく店員さん曰く「一通り」だそうで、私たちはビール(瓶のみなのが好感)、日本酒(辛口か否かを言えば大将が銘柄を選択)、芋焼酎(三岳)を。
 前菜が今イチ(当社比……K市いちばんの懐石「G」との比較)だったので心配しましたが、2品目の鯨より先は美味しく楽しく満足。佐世保の魚がそもそも良くて、大将のお仕事も誠実。フォアグラを握るとか、雲丹の巻き方(軍艦ではなく握りを下から掬うように巻く)とか、鰻をたたいて出すとか、処々初めてはありましたが基本は王道です。
 日本酒の揃いは普通で、辛くないやつを4連打でお願いしたら、「よこやま」「一本義」「貴」ときて、最後の「北雪」は別の客が辛いやつで注文してたやつだったという御愛敬。皿は以下の通り。
 前菜(水雲・石蕗・蛍烏賊・黒豆チーズ・鯛真子・鯛炙り・蕪)
 鯨さえずり
 雲丹・烏賊・生唐墨
 中トロ漬け炙り(以下、味噌汁と果物と以外は全て握り)
 鮃えんがわ
 烏賊昆布〆雲丹乗せ
 トロ
 縞鯵
 雲丹
 海老
 鯛
 鮑
 フォアグラ
 味噌汁(トコブシ
 鰻
 鮪手巻き
 菜の花
 鉄火巻(追加)
 果物

 本日は祝祭日の前日ということで、夕方までは(平日故に)観光地は空いているだろうけれども夜は人出が多いだろうと想像していました。佐世保だから、米海軍基地の人々が夜の繁華街で陽気に騒ぐみたいな図も想像していたんですけれども、Fくん曰く米海軍基地は日本とカレンダーが違っているとのことで、確かに夜の町に外国人の姿は見えません。
 2軒目はFくんにお任せしたら、昭和感丸出しのスナック「ヴィヴィッド」に連れて行ってくれました。先に「外国人の姿は見えません」と書きましたが、ここは外国人お断りの店なんだそう(棲み分けがあるんですね)。私たち以外は一人客が2組で、こちらの相手は若いチーママさんがご担当。私たちは、昭和からやってるなというベテランママさんとお話をしながら、私が生まれるより前の歌謡曲を何曲も歌いました。FくんのSBM(Super B'z Mode)も久々に観られて満足……ですけど帰りの記憶があんまりありません(日付は確実に跨いでました)。