私の中の他人

 朝イチで訪れた耳鼻咽喉科の抗原検査で、新型コロナウィルスの感染が確認されました。1/30(日)以降は自宅・職場・買い物の3点移動で誰とも会って(対面でマスクを外して)おらず、濃厚接触者が居ないのが救いでした(今年度担当中の高3は2月以降授業がありませんでした)。
 というわけで、ここから10日間の日記は「新型コロナウィルス感染者の療養の記録」です。

 午前中2時間を年休にして、9時いちばんに市内(自宅から徒歩圏内、っつっても30分)の「S耳鼻咽喉科」に行きました。お願いすればコロナ感染の検査もやって貰えるということです。
 事前予約で37℃の熱発を伝えているので、私は「発熱外来」扱いです。8時55分に到着するまでの(徒歩移動中の)病院とのやり取りは総て電話でしたが、私が「車ではなく徒歩で向かっています」と話したら看護師さんは「えっ……」と絶句されました。「……発熱外来は、駐車場で長く待たされますが」と言われたって私には「背に腹はですので」としか答えられません(待たせてナンボみたいに考えてそうな医療関係者がわざわざ「待たされます」とか宣言するくらいですから、それはアホほど待たされるんだろうと逆に覚悟が固まりました)。
 実際、到着後に裏口付近の駐車場(寒空の下)で15分待たされ、体調に関するアンケートを書かされた後で10分待たされ、案内の看護師さん・お医者さんともに完全防護服の診察室は1分強で追い出され、その後会計前に更に40分待たされました。車で来ていたら車内で暖まってられたわけですね。
 診察室の1分強は、無言で口を開くように指示され喉の奥を1秒見られて「赤いね、薬出します」と言われた後、抗原検査の為に鼻から棒を突っ込まれて終わりです。無言を指示されましたが、この時点の私、殆ど声を発することが出来ません(喉痛と痰とで)。実際、病院へ来る途中の携帯電話でのやり取りはデフォルメした森進一のモノマネみたいな感じの声だったと思いますし、事前に熱や症状や発症時の様子等々を紙に書いたものを準備してそれを看護師さんに渡しています。

 さて、寒空で40分待たされた後、裏口に出てきたお医者さんから「陽性」と印刷された紙を渡されました。保健所から近く携帯に電話があるそうです。更に20分待たされた後でこれまた防護服を着た薬剤師さんが喉の薬を持ってきてくれました(ここで料金を払いました)。改めて「誰とも接触せずに自宅に戻り、保健所から携帯に電話で指示があるのを待つ」よう言われてから病院の敷地を出ます。
 昨日の食料買い溜めがフラグに……というか、周囲の状況を考えたら可能性としては充分に考えられる話だな、とある程度の覚悟は出来ていました。ですが……①最初に考えたのが「テスト会疲れの老いとかじゃなくて、実際に病気だった訳だ。じゃ逆に、これは私の若さの証拠と言って良いんじゃない?」とかいう論理的に考えてどうよな内容のものだった、②その後で「だよね、感染は若さの証拠だよ。喜ぼう。これが本当のポジティブ・シンキング」とかいう文字通り面白くないし状況的に笑えもしない血痰みたいな駄洒落が浮かんだ。以上2点を踏まえるに、どうも私は動揺していたようです。

 自宅まで徒歩30分弱を、取りあえず携帯電話での各所連絡に費やしました。

 先ずは学校管理職。教頭先生含め数人の先生が「池ノ都(時間割係)が休んだらもう全校休校でよくない?」と冗談を言う程に時間割がバタバタしている最中ですのでお電話するのは心苦しく、受話器向こうの教頭先生が「あっはっはっはっはっはっはっはっはっ」と笑うしかないのも解ります。
 続いて、進路指導室の事務嬢さん。時々帰りに車で自宅まで送っていただいているように、私の自宅は彼女の(寄り道をして下さったら)通退勤路にあります。また、進路指導室担当ということで高3の教員・生徒の状況を最も的確に把握しておられるのが事務嬢さんです。テスト会・自主提出の添削の運搬(私の自宅と学校との往復)をお願いできるのは彼女しかいません。
 最後に、K市の母であるHさん。3日くらい前に「お互い気をつけようね~」という電話をしたその次の電話がヘルプミーだというのもどうかと思いますが、きっとお世話になると思います、とご挨拶を。

 さて、帰宅11時。先ずは病院処方の喉痛の薬を2種類服用……これについては、30分もしたころに痛みが本当に軽減したのに感動しました(身体の症状については、これ以降、悲観的になったことはありません)。幸せな気分。ただ、痰は止まらなかったので、市販の去痰剤も一緒に服用(した後で、病院の薬と一緒に飲んで良いか悪いのか知らないことに気づきましたが考えないことにしました)。
 居間の炬燵に入って、東京のオツカル様に連絡。二人で飲んだのが1/29なので彼は私の「濃厚接触者」には当たらないのですが、連絡をしないのは不誠実と思われたので。彼自身はいたって健康、その後も大丈夫だったということなので、私の感染にオツカル様は無関係だと断定しています。となると、可能性がある期間の外食(外飲み)はゼロなので、考えられるのは職場か買い物かのいずれかということになりますね。ただ、オツカル様が関係ないならそれ以上考えるのはやめることにします。職場に「私の濃厚接触者」が居ないことは保健の先生に調べていただいています。

 次に考えるべき大事なこと……「自粛御膳」だ。blog(2週間遅れ)やFacebook(当日更新)では必ずその日の夜に食べたもの(飲んだ酒)をアップしていますが、そこで「自粛御膳」を僭称しているあのネーミングをどうにかしないと。だって、実際にコロナに罹患して自宅から出られないんなら、それはもう「自粛」じゃないんですから。
 それが大事なことかと言われたらまさに一大事、食べたものが私になるんですから、それへの名付けは最重要事項です。でも「隔離御膳」は何だか嫌だな~……と思っていたら、Facebookで繋がっている職場の同僚先生に「療養御膳は?」と言われて成程、と。「養」の字は良いな、じゃあそれをいただいて「静養御膳」にしよう、と決めました。これだと、自宅拘束の身上を忘れて遠くへ出掛けているっぽい感じだし、「せいよう」の響きも文明開化(現代文の夜明けぜよ)っぽいですし。というわけで、気分だけでも、の「静養御膳」に決定。

 今日明日には保健所から電話がかかってくるだろうということで、先ずは12時時点の体温……37.0℃。微熱、頭痛無し。ってか、コロナ禍前なら38℃程度なら普通に授業してるわけだから、微熱程度は(感染の判定には関係しても、主観的な体調としては)どうでもいい。以下、自分の身体と問答。
 ・Q「倦怠感はありますか?」→A「一切無し」
 ・Q「喉の調子は?」→A「病院薬で大分良く。でも痛い、唾を飲み込みたくない。痰と咳とも続く」
 ・Q「嗅覚と味覚とは?」→A「ハーゲンダッツにコーヒー。アイスは甘い、コーヒーは香り高く味は苦い。多分異常なし」
 嗅覚味覚に異常があったら自炊はしなかった、倦怠感があったら仕事はサボった……のに。

 結論、引き籠もって働け、自炊して食え。

 教務部長地理先生とはLINEで連絡を取り、学年閉鎖等の影響で刻々変わる時間割については、私が自宅から適宜データを送信することに決まりました。また、高3の添削については、一定枚数毎に事務嬢さんに自宅に届けて貰うことにしています。勿論、感染者が添削をする訳ですから【添削に関しては手袋・マスク・消毒を徹底して行い、生徒には添削答案そのものではなく答案のカラーコピーを渡す】ということを管理職・学年主任体育先生にはご連絡済みです。
 そうと決まれば、私がやることは一つ。13~18時は書斎でガッツリ仕事。時間割係の年度末最後のご奉公、来年度の時間割作成に着手です。この2月3月に来年度の計画(来年度に関わる準備)をどれだけ出来るかというのも教員の力量(誠実さ)ですからね、と意気込んで。折角のお一人様ですから存分に「パズル」を愉しもう……ビールを飲みながら……と一瞬思ったんですけれども「何が力量誠実やねん」と自分の中の天使がツッコんできたのでそれだけは自粛。代わりに、大好きなCDを大きめの音量で流しながら、5時間。

 2/7の「静養御膳」。
 小鉢2種~チキンサラダ~一汁一菜。
 心身とも朝から色々忙しかったので、手作りは味噌汁(白味噌・ベーコン・白菜・カイワレ)だけで、後は作り置きやパック野菜にサラダチキン乗せただけみたいなやつや。これは断言しますけど、酒も飲むよ(ビール・日本酒)。だって、味覚も嗅覚もあるんですもの。
 とはいえ、お酒の量は昨日までの半分で、チェイサーには微温湯をたっぷり。

 30万人の人口で毎日300人の感染者が出ているK市の状況は殆ど東京都と同じ、なので当日の内(夕方)にK市の保健所から聞き取りの電話があったのには正直驚きました(明日くらいまでは放置されるのではないかと思っていました)。保健の先生からのアドバイスで、病院の方に教育関係者であることは伝えていましたが、それが何らか影響したのかどうかは判りません。
 聞き取りでは、私の境遇・既往・感染前後の状況・今後に関する希望や質問……等々、かなり精密(誠実)に確認して下さって恐縮しました。であるからこそ、手間も時間もかかるのでしょうね。施設病院での療養と自宅での療養との選択希望を訊ねられましたが、私は先の結論「引き籠もって働け」を守るべく自宅療養を選びました。保健所に伝えた理由は以下。
 ①独居で感染させる可能性のある家族(他者)が居ない。
 ②今のところは喉以外の症状が無い。
 ③仏前へのお供えを欠かしたくない。
 そして、伝えなかった理由は以下。
 ④仕事用のPCがデスクトップである(ラップトップではない)。
 ⑤学校から仕事用の届け物をして下さる人がいる(病院施設だと無理かも知れない)。
 自宅療養の希望はすんなり受け容れられ、これから毎日健康観察の電話が保健所からあることを伝えられ、そして……
 保「明日には、自宅療養の詳細なマニュアルが届きますので、どうかそれを読まれてご心配な点の解消を」
 私「先にお伝え致しました通りのマンション独居なのですが、集合郵便受けまで出ても良いのですか?」
 保「あっ……えっと、玄関のドアを開けることは……何とか受け取って頂ければ……」
 一休さんかよどないして受け取れっちゅーねん、それともあれか、自宅療養の詳細なマニュアルとかいうんを療養明けに満を持して読めっちゅーんか。などということは言わずに曖昧に笑ってから電話を切りました。

 F校に就職するのを決めたのは中1の時だったというのは何度も書いたことがありますが、それが確実になりそうだと思った(1年次の教職課程の授業を全優で終えた)大学時代に、私は自分の人生における3つの誓いを立てました(理由は略)。
 ・結婚しない(同居家族を持たない)
 ・車の免許を取らない
 ・自炊しない
 自炊はするようになっちゃいましたが、他の2点は守っています(母君のお見送り前は1年半ほど自宅でご一緒しましたが、これは誓いの「内」です)。今回のコロナ罹患でも、おかげ様で(勿論、色々な先生にご迷惑をおかけしながらですが)明日以降も仕事が続けられそうです。日常性の維持。

 21時過ぎに就寝。